◆(たてやま清隆議員) 意見書案第八号 国民の疑問や不安を払拭するための説明責任を果たすために国会の場を通じた懇切丁寧な対応を求める意見書提出の件について、日本共産党市議団を代表して、賛成の立場から討論します。
 去る六月十五日、委員会採決を抜きにした中間報告という国会ルール無視の禁じ手まで行使して、参議院本会議で、自民、公明、日本維新の会の賛成多数で採決が強行され、テロ等準備罪、いわゆる共謀罪を新設する組織犯罪処罰法改正案が可決・成立しました。
 このような結果について、地元新聞の社説は、熟議を軽視し、なりふり構わずに数の力に物を言わせた「一強」政権の暴挙であると談じました。また、地元紙の論評では、「五月の共同通信世論調査では、「共謀罪について、政府の説明が十分だとは思わない」が七七・二%に上っていた。国民の懸念を置き去りにしてまで会期内成立にこだわった理由は、国会延長に伴って加計学園問題で野党に追及される場面がふえることを警戒したためだったとすれば、言語道断のそしりを免れまい」とし、全国各地で数の力の暴挙に政権のおごりきわまるとの国民の批判が広がりました。
 なぜ共謀罪について、今なお国民の中で不安感や不信感が広がっているのでしょうか。それは、意見書で述べているように、政府が国民の疑問や不安を払拭するための説明責任をまだ果たしていないと多くの国民が考えているからです。では、国民はどのような点について説明責任が果たされていないと考えているのでしょうか。
 第一に、国民は共謀罪によって処罰の対象が行為ではなく合意を対象とし、その結果、憲法第十九条が保障する内心の自由が侵害されるおそれがあると考えるからです。
 政府は、主体を組織的犯罪集団とし、二人以上による計画とそれに基づく実行準備行為という三つの構成要件で厳格化したと述べていますが、テロ組織、暴力団、薬物密売組織は例示に過ぎません。その団体の結合関係の基礎としての共同の目的が法案の別表に掲げられた二百七十七もの罪にあり、警察当局の判断で捜査と処罰の対象になるからです。政府は一般人が対象となることはあり得ないと言いますが、条文上は全く限定されていません。これは、警察当局によって捜査対象と目されれば、誰もが一般人ではなくなるということを意味するからです。そもそも我が国の刑法で処罰される犯罪とは、人の生命、身体、財産など、法律で保護される利益、法益が侵害されて被害が発生する、いわゆる既遂処罰が原則とされています。これは、戦前、日本やナチスが国民の自由を侵害し、恐怖に陥れた反省の上に立って確立された刑法の原則です。しかし、共謀罪は人の生命や身体、財産などの公益を侵害する危険性が客観的にはない合意を処罰するものであり、これまでの我が国の刑法の大原則を壊す暴挙と言わざるを得ません。
 第二に、国民は警察及び検察の活動に共謀罪による法的根拠を与える結果、犯罪とは全く無縁の市民の人権やプライバシーが深刻な人権侵害を受けるおそれがあると考えるからです。
 去る五月二十九日の参議院本会議で金田法務大臣は、対外的には環境保護や人権保護を標榜していたとしても、それがいわば隠れみのであって、実態によって構成員の結合関係の基礎としての共同の目的が一定の重大な犯罪等を実行することにある団体と認められるような場合には組織的犯罪集団と認められ、その構成員はテロ等準備罪で処罰され得ることになると重大な答弁をしました。この答弁に対して、原発再稼働反対〇〇住民の会や米軍基地反対〇〇住民の会などの市民団体も活動実態や組織構造を見て共謀罪で処罰され得るのかの質問に大臣は、「収集された証拠に基づき個別具体的に判断されるとし、想定されない」と述べるだけで、否定はしませんでした。
 では、警察当局はどのようにして市民の活動実態や組織構造を調べるのでしょうか。それは、現実に発生した警察による市民のプライバシー侵害の事件が物語っています。岐阜県の大垣警察署が風力発電をめぐって勉強会を開いた住民のプライバシーを収集して事業者に提供し、住民運動潰しの相談をしていたことが明らかになったからです。警察はこのような監視を通常の業務と正当化していますが、情報を収集した結果、共謀罪の嫌疑が出てくれば犯罪捜査に移行するのかの質問に対して、国家公安委員長は、「一般論としてはあり得る」と答弁しました。犯罪と無縁の国民が共謀罪によって警察当局のさじかげん一つでプライバシーが侵害され、なぜ調査対象になったかもわからないまま市民の人権やプライバシーが深刻な侵害を受ける危険性があることを深く認識すべきではないでしょうか。
 したがって、国連人権理事会が任命した特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏から、共謀罪によって日本国民のプライバシー権や表現の自由が過度の制約を受けることを懸念する書簡が日本政府に送られてきたことを重く受けとめるべきではないでしょうか。
 第三に、国民は、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)締結に共謀罪の新設が不可欠であるとの根拠が既に失われていると考えるからです。政府は、二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてTOC条約を締結する必要があると述べましたが、そもそもこのTOC条約は、マフィア等の経済犯罪に対応するための条約であり、テロ対策の条約ではありません。この条約を締結するための国連立法ガイドを作成したニコス・パッサス教授が「条約はテロ対策が目的ではない」と明言しているからです。また、政府自身も条約の起草過程で、テロリズムは本条約の対象にすべきでないと主張していたことも明らかになりました。したがって、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)は、国内法原則、すなわち、日本国憲法に基づく国際組織犯罪対処の措置を求めています。既に国会承認はなされており、現行法でTOC条約を締結すべきであります。
 以上、共謀罪、テロ等準備罪について国民の疑問や不安が払拭されていない点を三点申し上げました。地元新聞の社説は、最後に、「共謀罪成立で日本は監視社会に大きく一歩踏み出した。国民一人一人が法の恣意的運用や捜査権限の膨張に厳しい目を向け続けなければならない」と述べています。共謀罪は七月十一日に施行されようとしています。日本を監視社会にしないために、また警察当局に法の恣意的運用をさせないために政府は国民への説明責任を果たすべきです。
 民進党、日本共産党、社民党、自由党の四党は、憲法第五十三条に基づき臨時国会の開会を要請しました。意見書で述べているように、国民の疑問や不信感がますます増大する森友問題、加計学園問題も含めて国会の場で共謀罪が新設された改正組織犯罪処罰法についての説明責任を果たすまで法施行を中止するという趣旨に賛同することを申し上げ、私の賛成討論を終わります。(拍手)